動力伝達が可能なスライド方法について、また、スライドに対応できる動力伝達方法について書いていきます。
ここでのスライドは1自由度(直線移動)のものにします。
スライドのさせ方
スライドさせるには、レールを敷くのが一番です。
直線運動する機構もリンク系機構にはあるのですが、スライドというのは直線運動に加えて角度の補正も必要です。
リンク系機構でスライドを実現させるには同じ機構を2つ並べて使用するなどの工夫が必要なので、
レールを設計して何らかの機構で往復させるのがいいでしょう。
レールを作ったら、次は何を使ってスライドさせるかです。
【直線運動まとめ】にもいくつか記載してありますが、スライドさせるのに有効なのは以下のものです。
- ラック&ピニオン
- スライダ・クランク機構
- スコッチヨーク機構
- スコッチヨーク機構×三角カム
ラック&ピニオン
ピニオンを動かすことでラックを取り付けた構造体をスライドさせることができます。
ただし、ラックを往復させるためにはピニオンへの入力も往復回転とする必要があります。
したがって、循環動作を考えた時、ラック&ピニオンの他に回転方向を切り替える機構を設ける必要があります。
(これは簡単に回転方向を切り替えられる電気的制御とは違い、難しいところだと思います。)
動力伝達の難易度から、基本的にはラック&ピニオンを使ったスライドで停止できる位置は移動する両端の2箇所になります。
スライダ・クランク機構
歯車などの回転体とスライドさせる構造体をリンクで繋ぐことにより、スライドをさせます。
ラック&ピニオンと違い、スライドの往復運動に対して入力の回転方向はどちらでもよいので設計がし易いです。
入力が一方向の回転のみでできるため、間欠歯車を用いた制御により複数の位置に停止させることができます。
部品も設計が容易なのは◎ですが、スロット・クランク機構の回転するほうは片持ちになるので、スライドさせるものが重すぎると少し心配でしょうか。
スコッチヨーク機構
取り扱いとしてはスロット・クランク機構と同じく、回転の入力でスライドをさせることができます。
スロット・クランク機構よりリンク1本分 部品点数が少ないので、実製作した際の遊びや歪みに強くなります。
三角カム
三角カムをスコッチヨーク機構のようにすることで従動節をスライドさせる方法です。
三角カムを60°回すごとに2つの位置をスライドします。
三角カムによるスライド量は他の機構に比べるとごく少量ですが、三角カムを使うことのメリットとしては原動車を両持ちにすることができるため強度が増します。
スライドに対応する動力伝達方法
3つ紹介します。
- オルダム継手
- リンク×平歯車
- ラック&ピニオン
オルダム継手
オルダム継手はスライドなどの直線的な移動にも対応するほか、平面的な移動にも対応できる動力伝達方法です。
停止中も、移動中も動力伝達をすることができます。
高速・高負荷には弱いとされているオルダム継手ですが、からくりの製作でオルダム継手の破損が懸念されるほどの回転をさせることはほとんどないため、
スライドする構造体への動力伝達方法として最も有力な機構ではないかと思います。
構造上、片持ちの機構となるので2つのフレームで軸を固定するなどの対策をするとより強度が増します。
リンク×平歯車
固定側とスライド側の平歯車を、それぞれを繋ぐ中間歯車とリンクで繋ぐことでスライド量に応じて中間歯車が動き動力伝達をすることができる機構です。全ての歯車を両持ちとして設計することができます。
ただし、移動に応じて中間歯車が動くため、若干の回転が発生します。スライドする構造体の入力後に間欠歯車を用いるのであれば、この若干の回転は間欠歯車の停止範囲内に収めることも可能です。
ラック&ピニオン
これは動力伝達の方法というよりは、スライドにより動力を発生させる方法です。
先述したラック&ピニオンによるスライド方法とは逆で、
スライド側にピニオンを取り付け、固定側にラックを取り付けることでスライドすることでピニオンが回転をするようになります。
スライドする量に応じた回転を発生させますが、回るのはスライド中のみになります。
「移動する構造体への動力伝達」というのはあまりお目にかかる課題ではありません。
が、可変式の機構へ動力を伝え方を知っておくと、からくり製作での幅がより一層広がります。
もちろん、電気的制御をするのであればここで紹介したもののほとんどは必要ないと思います。
意地でも電気を使わない人や、単純回転から機械的要素のみで作品を構築したい人へ向けて。